化かす化かすが化かされる
ばかすばかすがばかされる
俺が土方さんと映画を見に行く場合は大概決まってる。
@土方さんが見たい場合
A俺が見たい場合
B仕事のカモフラージュ(映画館で情報屋と接触とか)
そしてもうひとつ。
今回の場合はソレに当る。
「副長、そろそろ休暇溜まってるっしょ、映画見に行きません?」
「原田か」
殺伐とした空気の副長室にズカズカ入り込む。
無意味に眼つきの悪い土方さんには慣れているけれど、その種類が問題だ。
「タダ券もらったんですよ、しかも招待券」
何事も無かったようにピラピラ券を見せびらかして、ニヤリと笑う。
すると土方さんの眼つきもやや緩む。
「ほう」
書類から一瞬目を離したが、ああと呟いて再び視線を机に戻す。
「日時指定系はダメだぞ。今の案件がまだハッキリ進展してねーからな」
チ、しぶとい。
この重度の仕事ジャンキーをどうにかするのが俺ら幹部の役目でもある。
まあこれは俺たちが土方さんの様子を見て勝手にやってんだけど。
単に仕事漬けになるだけならいいけど、この人肉体的にも精神的にもどんだけ追い詰め
られても省みないで仕事優先しちゃうから問題なんだよ。
しかも他の隊士にバレないようにしてんだけど、やっぱ多少無理が出たりする。
そうすると隊士にもついキツく当っちまうから悪循環で。
すっかり鬼の副長が板についてしまった。
まあ見せられないし、見せたくもないんだけどさ。
実はこの人が結構な人情家だって事とか。
裏切り者はたとえ隊士であってもバッサリ切り捨てるけど、その下調べはすっごい入念
だったりとか。
俺らにすらまともに見せてくれないけど、あの振り向かない背中の向こうで土方さんが
辛そうな顔をしてるんじゃないかな、とか。
もうちょっと昔のように笑って欲しいかな、とかさ。
本っ当ーにギリギリまで何も言わない人だからこうやって時々、俺らが勝手に…まーいわ
ゆるガス抜き?をする。
ガス抜きになってるかわかんないし、タイミングも合ってるかなんて正直俺にはよくわかん
ないけど。
いつも側にいる総梧とかは、ちったあ分かるんだろうけどあいつも素直じゃないしな。
結局どっちも不器用だから土方さんをうまく息抜きさせれなくて、それでもいつもヤバイ
手前でなんとかしてるから笑える。
つってもアイツも同じように変に真面目だから時々息抜きさせるようにはしてるけど。
まったく、真選組の幹部は大将以外は面倒な奴が多い。
そういや永倉と藤堂がこの前夜中にコソコソしてたから、そろそろ限定モンの酒でも持って
副長室へ行く算段をつけてる頃だろうなー。
斉藤あたりは俺よりは多少土方さんの事はわかってんだろうけど、あいつもなー…。
うん?そういや井上さんがこっそり飯屋のリサーチしてたし、そろそろうまい飯でも食べに
行かせるんだろうな。あの人が一番正解な気がする。
根詰めだしたら禄に喰わないけど、そこまで細くないし土方さんって一体どんな燃費して
んだろ。まさかその為のマヨ?
高カロリーで無理やり起動させてんのか?
うわ、今何かおっそろしい考えに行き着いちまったよ、怖っ。
そこでふと気付く。皆がそろそろ計画してんなら俺が今特にやる必要ねーじゃん。
「じゃあ仕方ないですねー。この招待券は別の人と行きますわー」
ひょいとヒラヒラ土方さんに向けてたのを手に返す。
えーと、確か来週だったよなー。平日だったけど、誰か非番の奴いたかな。
せっかく頼み込んでもらってきたんだから見ないとムカつくし。
「えいりあんと海賊の呪われた秘宝物語かー。ま微妙ちゃ微妙だしな」
「いやいやいやいや、何だそれ。今そんなモンやってんのか。つかそんな色々カオスに
してて問題になんねーのかよって、オイ待てテメエ」
几帳面にツッコミ入れながら、チケットを引っ込めようとした俺の手首をガシと掴む。
「だ、誰も行かないなんて言ってねーだろーが。つかソレいつだ」
「えー、副長忙しいんっしょ?」
ザキみたいに超やる気な〜く棒読みで言ってみると、すっげ嫌そうな顔したのが可笑し
くて思わず噴出す。
こっちだって土方さんが興味持ちそうなのチョイスしてきたっつーの、ザマーミロ。
「原田テメェ!」
腹を抱えて笑い出した俺に土方さんが凄んでくるけど、耳赤くしてんのに怖い訳ない
じゃん。
「ハハハ、土方さんおっかしー!」
何か変にツボに入ってしまってひーひー言ってると、土方さんがちょっと目を見開いた。
「久々に聞いたな、お前が俺を名前で呼ぶの…」
「あ、ヤベ」
隊長になってからは土方さんの事を副長って呼ぶようにしてた。
他の隊士の前でボロ出てしまうくらいならもうずっとこのままでいいやって。
どうしても武州組は悪目立ちしてる感があって、そのせいで贔屓されてるとか色々陰口
叩かれるのが面倒だった。
本当はそんなつもりでこんなトコまで来たんじゃねーような気がすんだけどさ。
名誉とか、出世とか、なんかもう色々。
「何でヤバイんだよ…」
困ったように土方さんが言う。そんな姿を見るとこの人がこうして居る限り、ま仕方ない
かなって諦める気になるけどさ。
とりあえず俺はハイハイ、手を離してって掴まれた腕を軽く叩く。
「あ、ああ悪ぃ」
「んじゃ、映画は来週木曜なんで忘れないで下さいよ。副長が来れない場合、他の人と
行きますんでチケッットは俺が預かっときます」
「ああー?オメエ、最近性格悪くなってねーか」
「嫌われてナンボの警察に何言ってんですかアンタ」
どうも今日は俺も土方さんも調子がおかしいのかもしれない。
ああ、何か久しぶりだ。あの頃みたいな…
「右之助」
反射的に顔を上げる。
「まあ…何だ。今度新七と凹助呼んで久々に飲みに行くか」
「…いいっすね。是非」
俺からも奴等に声はかけときますが、副長からも言ってやって下さいよ。
(そしたらあいつ等何を置いても飛んでくるだろうな…)
人事のように思いつつ、ついでに土方さんにも釘を刺す。
あんたもちゃーんとスケジュール調整してくださいよ、と小言っぽく言ってはいるが実は
心中では勝手に頬がニヤけてくるのを抑えるのに必死だった。
つか、ガス抜きに来て、俺が癒されてどうする。
そう思いつつ隊長室までの短い道程で、つい浮かれて鼻歌歌いそうになってる自分に気付
いて苦笑した。